イギリスのシンガー/キーボーディスト、Hollie Cook(ホリー・クック)。日本ではまだなじみが薄いかもしれないがが一度聴けば、その心地よさの理由がすぐにわかる。そんな彼女が2026年4月17日に最新アルバム『Shy Girl In Dub!』をリリースした。
パンクの血を持つ、レゲエのシンガー
Hollie Cookはロンドン出身のシンガー/キーボーディスト。父はSex Pistolsのドラマー Paul Cook、母はCulture Club周辺で活動したシンガーという音楽的申し子である。
転機は The Slits への参加だったという。女性パンク/レゲエ・バンドを経てソロへ転じた彼女は、自らの音楽を”tropical pop”と呼ぶように。レゲエとダブをベースに、60年代ガールズ・グループの甘さを混ぜた、軽やかなポップ世界が持ち味だ。
2011年のセルフタイトル作『Hollie Cook』でソロ・デビューを果たすと、『Twice』(2014)、『Vessel of Love』(2018)、『Happy Hour』(2022)、『Shy Girl』(2025)と、着実に作品を重ねてきた。Prince FattyやBen McKoneといった UKレゲエ/ダブ・シーンの重要人物との仕事でも知られ、ラヴァーズ・ロックの文脈においてひときわ独自のポップ感覚を放つアーティストとして評価を高めている。
『Shy Girl In Dub!』とはどんな作品か
2026年4月17日にリリースされた『Shy Girl In Dub!』は、前作『Shy Girl』(2025)の”ダブ再構築版”として位置づけられる。
ダブはジャマイカ発祥の音楽手法で、既存のレゲエ録音からヴォーカルを抜き取り、ベースとドラムを前面に押し出しながら、エコーやリヴァーブといった空間エフェクトをダイナミックに操るスタイル。1970年代にキング・タビーやリー・”スクラッチ”・ペリーらが確立し、その後エレクトロニック・ミュージック全般に多大な影響を与えた。音楽の「隙間」と「揺れ」で聴かせる、独特の空間芸術である。
今作では、『Shy Girl』のプロデューサーでもあるBen McKoneが、アナログ・ミキシング卓を用いてダブ化。単なるエフェクトのかけ直しではなく、ヴィンテージ・ダブ・レゲエの手法を用いた”ライブ感のある再演”として原曲の空気感そのものを作り変えている。
Hollie の歌声は奥へ引き、低音と残響が前に出る。原曲の甘い輪郭が、ゆっくりとにじみ、より深く、より揺れる世界へと変容している。
まず聴くべき3曲
アルバムの入り口として、3曲を選んだ。
Shy Dub
アルバムを理解するための名刺代わりになるだろう曲。タイトル曲のダブ再解釈であり、テープディレイが効いたサウンドシステム志向の仕上がりとして紹介されている。作品全体の空気感を最短でつかめる1曲で、まずここから聴いてほしい。
Rockaway Dub
オリジナルが持つラヴァーズ・ロック的な浮遊感を残しながら、より低音寄りのワンドロップ・グルーヴへ落とし込んだとされる。Hollie Cookらしい甘さと、ダブ特有の重心の低さの両立が、この曲最大の聴きどころになるだろう。
We Share Dub
Skip Mahoney & The Casualsのカバー曲を神秘的なダブ解釈で再構築した1曲で、アルバムが単なる”エフェクト違い”でないことを示す好例だ。原曲の雰囲気そのものが変わっていて、再構築の本質がここに凝縮されている。
「Shy Dub」→「Rockaway Dub」→「We Share Dub」の順で聴けば、このアルバムの設計図が自然と見えてくるだろう。
洋楽好きが「発見する喜び」を得られる一枚
ジャマイカ音楽のエッセンス、UKポップの洗練、アナログ録音の温もり。なじみのある要素が自然に混ざり合っている。
これは「歌で聴かせるHollie Cook」ではなく、残響とベースと空間の揺れで聴かせる一枚だ。ヘッドフォンでも、少し音量を上げたスピーカーでも、低音が届いた瞬間にアルバムの本質が見えてくるだろう。


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