Thee Marloes(ジ・マーローズ)は、インドネシア第2の都市・スラバヤ出身のトリオ。メンバーは、ボーカル&キーボードのNatassya Sianturi、ギター&プロデューサーのSinatrya “Raka” Dharaka、ドラムのTommy Satwick。
彼らのサウンドは、クラシックなソウルの手触りを持ちながら、インドネシア的な感覚とジャズ、ポップの普遍性を結びつけたものだ。彼らが所属するニューヨークの名門レーベル〈Big Crown Records〉は、彼らを「スラバヤから届くソウル・ミュージック」と紹介。重みのあるドラム、甘く鳴るギター、感情豊かな歌声——3人による化学反応がThee Marloesを唯一無二にしている。
RakaとTommyの2人で活動をスタートさせたというThee Marloesは、2019年にNatassyaが加わり現在の形に。音楽一家で育ち、教会の聖歌隊で歌を磨いてきたというNatassyaの歌声が、バンドのサウンドに決定的な深みをもたらした。
インドネシアにはまだ前例のほとんどなかった削ぎ落とされたソウルの音を、自分たちなりに学び直して独自の味に仕上げた——というのが彼らの出発点だ。その姿勢が、デビュー・アルバム『Perak』(2024年)で世界的な注目を集めることにつながった。

セカンド・アルバム『Di Hotel Malibu』——深まる、インドネシアのソウル
2026年5月22日リリースのThee Marloesのセカンド・アルバム『Di Hotel Malibu』は、デビュー作の路線を捨てるのではなく、それをさらに広げた作品。
公式のコメントには「より開かれ、会話的で、そしてより深くインドネシア的」と記されていて、これが本作を一言で言い表した表現だろう。
サウンド面でも変化は明確で、アレンジはより広いスペクトラムを網羅し、新しい楽器の色彩が随所に加わっている。予想外のリズム展開、自由な曲構成——前作で確立したグルーヴを土台にしながら、より大きな実験へ踏み出した。3人が積み上げてきたものは、ここにきて一段と豊かになっっている。
歌詞の世界も、より個人的かつ社会的に。バンドは、本作を「ここ2年間の生活への応答」ととし、社会的な現実、揺れ動く恋愛関係、そして成功がもたらした変化を自伝的でありながら、普遍的な感触を持つ12曲(国内盤は14曲)として詰め込んだ。
日本市場向けの国内流通仕様盤には帯と解説(アーティスト・インタビュー&写真掲載)が付属。プロデュースはノラ・ジョーンズらを手がけた鬼才レオン・マイケルズが率いる〈Big Crown Records〉体制で行われている。
聴くべき3曲——アルバムへの入口として
全14曲の中から、特に注目すべき3曲を紹介。
Under the Silver Moon
遠距離恋愛の「苦さと甘さ」を描いた、軽やかな2ステップ調のナンバー。
冒頭のスネアの一打からリスナーを一気に引き込み、Natassyaの甘い声が比喩と詩的表現を重ねながら、鮮やかな情景を描いていく。ミュージック・ビデオも公開されており、”ホテルでエイリアンに遭遇する”というユニークな映像がサウンドの個性をさらに際立てている。
Thee Marloesの持つソウル感と親しみやすさが凝縮された1曲。まず代表曲から入りたい人、やわらかいグルーヴが好きな人におすすめ。
6 Years
これは、バンドの「今」を最も深く知ることができる曲かもしれない。
Natassya自身が、安定した昼の仕事を離れ、音楽の道へ進む葛藤を綴った楽曲。単なるラブソングでも、気持ちよく踊らせる曲でもない。人生の選択、不確かさ、そして前へ進む意志——それらが率直な言葉で歌われている。
歌詞のストーリーや背景を重視したい人、メンバーの人生が反映された曲を聴きたい人にはとりわけ刺さるはず。
Boru
このアルバムの核心に触れたいなら、この曲は外せない。
北スマトラの伝統言語・バタク語だけで歌われる本曲は、Thee Marloesのルーツへの向き合い方を象徴している。自分たちがどこから来たのか。何を受け継ぎ、何を次へつなぐのか。そうした問いに、音楽を通じて誠実に向き合っている。
『Di Hotel Malibu』全体が「より深くインドネシア的」な方向へ進んだ作品と言われる中で、「Boru」はその意志を最も純粋に体現した1曲。洋楽を聴きながらも、ルーツや土地の音楽に関心がある人にとって特別な体験になるだろう。
最後に
ソウルやR&Bは、世界中にリスナーがいる。だがその音楽が、スラバヤという街から届いたとき——印象はどう変わるだろうか。
Thee Marloesが面白いのは、”本場のコピー”ではないところだ。クラシックなソウルの文法を吸収しながら、自分たちの言語と感覚で作り直している。インドネシア語やバタク語の歌詞も、表現の幅を狭めるのではなく、むしろサウンドの個性を際立てる。
セカンド・アルバム『Di Hotel Malibu』は、その姿勢がさらに深まった作品。デビュー以降のツアー経験——日本、アメリカ、ヨーロッパを回ったことで得た成熟が、このアルバムには確かに刻まれている。
まだ聴いたことがない人にとって、今がちょうどいい入り口になるはずだ。


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