イースト・ロンドンのシンガー・ソングライター JONESが、2025年7月25日に最新EP『In The Moment』をリリースした。全5曲収録、時間にすると約17分とコンパクトでありながら、しっかり密度のある作品だ。
JONESとは
JONESことCherie Jonesは、15歳ごろからソングライティングを始めるとソウル、R&B、ディスコを軸に独自の音世界を築いてきた。その作風には、Lykke LiやYukimi Nagano(Little Dragon)に通じる空気感があると評されている。柔らかくも芯のあるボーカル、そして感情の機微をていねいに言葉にする力が、彼女の最大の武器といえる。
影響源として挙げられるのは、Mariah Carey、Bob Marley、Otis Redding。一見バラバラにも思えるが、その三者に共通する「声で感情をまっすぐ届ける力」がJONESの音楽の根底に感じられる。
EP『In The Moment』の全体像
EP『In The Moment』を一言で表すなら、「失恋と再生を、光と色と水のイメージで紡いだ5曲」
音楽メディア EARMILKは、この作品を傷つきながらも、懐かしさや喜びを抱えて、前へ進もうとする姿を体現した作品と評している。失恋の痛みがあり、揺らぎがあり、でも最終的には光へ向かっていく。暗くなりすぎず、かといって上滑りもしない。そのバランスが絶妙だ。
全曲の作詞・作曲には、JONESとプロデューサーのAaron Taylorが関わっている。EP全体に一貫した質感があるのは、この二人の共同作業が機能しているからだろう。
収録曲と流れ
曲順は、かなり意図的に設計されている。前半2曲で気持ちを持ち上げ、3曲目で感情の核心に触れ、後半2曲で恋と安らぎへ着地する。聴き通すと「曇りのち晴れ」へ移っていく感覚が残る。
Sunshine
EPの幕開けは、静かな希望から始まる
雨や寒さのあとに扉が開くような感覚。タイトルの「日差し」は単なる明るさではなく、回復の兆しとして機能している。あたたかみのあるキーボード、重なり合うボーカル、そして安定したリズム。盛り上げるための曲ではなく、聴き手の気持ちをゆっくりとほどいていくような曲。EARMILKも、この曲をEP全体の「感情の温度を整える入口」として解釈している。
In The Moment
タイトル曲は、このEPの思想を最も明確に言葉にした一曲だ
「不安を抱えたまま、それでも今この瞬間に身体を戻す」というテーマ。ネガティブな感情を消すのではなく、少し距離を置く発想が歌詞ににじんでいる。サウンドは、グリッター感のあるディスコ・フレアをまとった軽やかなポップ。Stereofoxは「80年代のWhitney Houstonの軽快さと現代的な流れのブレンド」と表現していて、その形容はなかなか的を射ていると感じる。
この曲は、EPリリースの約1か月前、2025年6月20日に先行シングルとして公開された。タイトル曲でありながら、作品全体の扉を先に開く「案内役」でもある。
Moonlight
EPの感情的な核心は、この曲にある
関係が終わった戸惑い、相手への未練、繰り返す問いといった感情が、歌詞の上で正直に並んでいる。しかしこの曲がただの失恋ソングに終わらないのは、痛みの中にも静かな前進力があるからだ。EARMILKの言葉を借りれば、傷ついてはいるが、立ち止まってはいない。悲しみを止まった感情ではなく、夜の中で踊りながらやり過ごすものとして描いている。
Melodic Magazineはこの曲をEPのハイライトとして挙げ、シルキーなボーカルと重ねられたハーモニー、シンプルながら豊かなシンセとドラムを高く評価。前2曲で上向かせた気持ちの奥に、まだ癒えていない傷があることを示す。それによってこのEPは、単なる「心地よい夏の作品」では終わらない深みを得ている。
Don’t Wanna Say Goodnight
4曲目に入ると、空気が変わる
失恋の余韻を抜け出し、新しいときめきへ向かう曲。EARMILKはその雰囲気を「静かに燃えるような、艶のある空気感」と表現していて、可愛らしいラブソングとは少し違う。熱を帯びた、成熟したムードがある。
そのムードを支えているのが、EP全体に繰り返し登場する「色(color)」のモチーフ。ここでの「色」は、心が再び開いていくことの比喩として機能。傷が癒えるだけでなく、再び誰かに惹かれていく感覚まで描いている。立ち直りの先まで、ちゃんと踏み込んでいるのがこの曲の強みだろう。
Heavenly Water
ラストは、EPの中でいちばん安らぎに満ちた曲
「愛」のイメージが、炎や衝動ではなく、潤し、鎮め、満たすものとして描かれている。水の比喩を使うことで、恋愛感情が「高揚」から「浄化」へと変化。EARMILKはこの曲を、EP中もっともエーセリアルなボーカルを持つ終曲として評価した。
「痛みを忘れる」のではなく、「痛みがあっても安らげる場所にたどり着く」。聴き終えたあとに残るのはドラマ性よりも、静かな回復感だ。
誰に届く作品か
ソウルやR&Bを長年聴いてきたリスナーなら、JONESの音楽にはすぐ馴染めるはず。ディスコの輝き、Whitney時代のポップな軽快さ、現代的なプロダクションらが一つの作品の中に、違和感なく溶け込んでいる。
全部で17分。通勤でも、夜の一人の時間でも、聴き通せる長さだ。5曲を順番に聴き終えると、気持ちが少し軽くなっている。大げさではなく、静かに、そういう変化が起きている。
JONES『In The Moment』は現在、Apple Music、Spotify、Deezerなど主要ストリーミングサービスにて配信中。タイトル曲「In The Moment」から聴き始めても、1曲目「Sunshine」から順番に聴き進めても、どちらでも楽しめる。ただ、EP全体の流れを体験したいなら、頭から通して聴くことをおすすめしたい。


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