Hi-Lo Jackとは
名前を聞いたことがない人も多いはずだ。それは当然で、Hi-Lo Jack はこれまでほとんど表舞台に出てこなかった。
正確には、「出られなかった」のではなく「焦らなかった」のだ。
メンバーは、ソウル・ポップバンド Lawrence のフロントマンである Clyde Lawrence(クライド・ローレンス)、インディーロックプロジェクト Stolen Jars を率いる Cody Fitzgerald(コーディ・フィッツジェラルド)、そしてラゴス(ナイジェリア)出身のラッパー/プロデューサー Dolapo Akinkugbe、通称 DAP The Contract(DAPザ・コントラクト)
大学時代に出会った3人は、ジャンルにとらわれない音楽への共通の愛を通じてすぐに意気投合し、やがてそれぞれの個性的なサウンドを融合させたプロジェクトへと発展していった。
2017年にHi-Lo Jack 名義でデビューEP『Old New Clothes』を発表。その後それぞれのキャリアに集中しながらも、8年越しでついにデビューアルバムを完成させた。それが、2026年5月1日にリリースされた『Group Project』である。
3人それぞれのキャリアを知ると、この作品がもっと面白くなる
Clyde Lawrence / Lawrence(クライド・ローレンス)
クライドは妹の Gracie Lawrence(グレイシー・ローレンス)と共に、8人編成のソウル・ポップバンド Lawrence を率いる人物だ。
ブラウン大学在学中から活動をスタートさせ、現在はニューヨークを拠点にキャリアを積んでいる。2024年リリースの最新アルバム『Family Business』を含む4枚のフルアルバムを発表し、うち2曲がポップ・ラジオのトップ40にチャートイン。インディペンデントバンドとしては異例の実績といえる。
Jimmy Fallon、Stephen Colbert、Jimmy Kimmel、Kelly Clarkson といったアメリカの主要テレビ番組への出演も果たし、Radio City Music Hall(ニューヨーク)、The Wiltern(ロサンゼルス)、MGM Music Hall(ボストン)ではソールドアウト公演を達成。The Rolling Stones、Jonas Brothers、Jacob Collier、Jon Bellion、AJR らの前座を務め、Coachella、Bonnaroo、Outside Lands、Bottlerock、North Sea Jazz などの大型フェスにも名を連ねてきた。いまやアメリカ国内で最も注目を集めるインディー系ソウルバンドのひとつである。
サウンドの核にあるのは、クライドが紡ぐ鍵盤主導のコード進行と、体温を感じさせるグレイシーのヴォーカルだ。複雑なコードを、あくまで「歌える音楽」として届ける能力こそが、このバンドの最大の武器といえる。
Cody Fitzgerald / Stolen Jars(コーディ・フィッツジェラルド)
コーディが18歳でリリースした Stolen Jars 名義のセルフタイトル・デビューアルバムの収録曲「Driving」が、Apple の iPad 広告に採用され、一躍注目を浴びることになる。
その後 The New York Times、NPR、Pitchfork といった権威あるメディアに取り上げられ、Talking Heads の David Byrne からも称賛の言葉を受けた。ブルックリンのインディーロックシーンで確固たる地位を持ちながら、プロデューサーとしても幅広く活動。Tim Atlas、Pom Pom Squad、Molly Grace らのプロデュースを手がけ、The Glitch Mob や Dabin への楽曲提供もそのキャリアのひとつに数えられる。
彼のギターワークが持つのは、複雑に絡み合う音の層と、感情の輪郭をそっとなぞるような繊細さだ。ロックの文脈でありながら、どこか室内楽的な奥行きを帯びたそのサウンドが、Hi-Lo Jack の音楽に独特の質感をもたらしている。
クライドとコーディは映画音楽コンポーザーとしても共同作業を積み重ねており、ヒュー・グラント&マリサ・トメイ主演の『The Rewrite』、ディズニー映画『Noelle』、そして Mark Ruffalo、Lili Reinhart、Cooper Raiff 出演のサンダンス上映作『Hal & Harper』のスコアを手がけた。『Noelle』においては、ディズニー映画を担当した史上最年少コンポーザーという記録まで打ち立てている。
DAP The Contract(DAPザ・コントラクト)
3人の中で最も異色の経歴を持つのが、DAP だ。
ナイジェリア・ラゴス出身で、クラシック・ピアノの訓練を受けた音楽家であり、コロンビア大学ロースクール卒業の知的財産専門弁護士でもある。The Source 誌は彼の2014年のミックステープ『GoodBye For Never』を「2014年最高のミックステープ」と評し、Mark Ronson とのアビーロード・スタジオでのレコーディング経験も持つ。ラゴスの Muri Okunola Park、ロンドンの Saatchi Gallery、ニューヨークの Irving Plaza など、3大陸にまたがる公演経歴もある。
ソロアーティストとしても精力的で、Powers シリーズやビジュアルアルバム『EVERYBODY FALLS IN THE SUMMER』など、自身でプロデュースした9枚のソロ作品を発表。2024年10月には最新シングル「Fàájì」もリリースしている。
そのヴァースは単に「ラップが乗っている」というものではない。言葉の密度、リズムへの乗せ方、メロディックな瞬間の挿入——その全てが計算されていながら、聴き手の耳には自然に届く。クライドとコーディのソングライティングに DAP の言葉が加わることで、Hi-Lo Jack の音楽はもう一つの次元を獲得することになる。
アルバム『Group Project』について
発売日:2026年5月1日 収録曲数:13曲 総再生時間:約35分 レーベル:Nvak Collective
タイトルの『Group Project』を直訳すれば「グループ課題」、つまり大学の授業で課される共同作業のことだ。
3人がブラウン大学で出会ったこと、それぞれ異なる音楽的バックグラウンドを持ちながら一つの作品を作り上げたこと——そのすべてがこの言葉に込められている。
アルバムには約8年分の時間が刻まれており、「Wasted Time」や「So It Goes」といったデビューEP収録曲の再録版も収められている。過去と現在を地続きに見せるような構成であることも、このアルバムの重要な特徴のひとつだ。
影響源として名前が挙がっているのは、Outkast、Stevie Wonder、Bon Iver、Randy Newman、Dirty Projectors、Chance the Rapper——このラインナップを見るだけで、Hi-Lo Jack がいかにジャンルの外側を歩んできたかが伝わるだろう。
まず聴くべき3曲
Comeback(tr.1)
8年ぶりの「復帰」を高らかに宣言する、アルバムの幕開けを飾る一曲だ。
クライドのキーボードが刻む厚いコードの上に、コーディのギターが絡み、DAP のヴァースが突き抜けてくる——この3つの要素が揃った瞬間に、Hi-Lo Jack というバンドの全体像が見えてくる。長い沈黙の後に届けられた音楽だからこそ、この曲の持つ推進力には独特の重みがある。初めて聴く人への入口として、最もふさわしい一曲といえる。
Tryna Be Cool(tr.2)
先行シングルの中でも最も広く聴かれた一曲で、アコースティック・バージョンの YouTube 動画は20万再生を超えている。
「クールでいようとする」という普遍的なテーマを、Hi-Lo Jack はひねりのある切り口で描く。重くなりすぎず、しかし軽くもない。その絶妙なバランスこそ、このバンドの本質的な魅力だ。3人のサウンドが最もなめらかに絡み合う曲でもあり、Hi-Lo Jack を知るための出発点として申し分ない。
So It Goes(tr.9)
2017年のデビューEPでも愛された楽曲が、今作に再録として収められている。
音楽メディア EARMILK がかつて絶賛したこの曲は、時間が経ってもまったく色褪せていない。むしろ、この曲を経て8年後の今作を聴くことで、Hi-Lo Jack というプロジェクトの「一貫した意志」がより鮮明に浮かび上がってくる。懐かしさと新鮮さが同時に訪れる、不思議な体験をもたらす一曲だ。
Hi-Lo Jackを聴く理由
ソウル、インディーロック、ヒップホップ——Hi-Lo Jack はこの3つを、活動当初から当然のように融合させてきた。一言で説明しようとすると、どれも正確ではない。それがこのバンドの強さでもある。
3人はそれぞれ、すでに一定の成功を収めた音楽家である。それでも Hi-Lo Jack に集まり続けるのは、「そこでしか作れないもの」があるからだろう。8年という時間を経てもその感覚が変わらなかったことが、今作の説得力の根拠になっている。
新しい音楽との出会いを探しているなら、Hi-Lo Jack が手がかりのひとつになるかもしれない。
Hi-Lo Jack『Group Project』 2026年5月1日リリース Spotify / Apple Music / Amazon Music 各配信プラットフォームにて配信中


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