英国の成人2,000人を対象にした最新の調査で、実に41%が過去1年間、アルバムを1枚通して聴いていないことが分かった。さらに8%は「アルバムを頭から最後まで聴いたことが一度もない」と回答している。
「お気に入りの曲」ばかりをリピート
この調査は、英国の鉄道会社ナショナル・レールが展開するキャンペーン「Track Reset」の一環として実施されたもの。回答者の70%は同じ曲を繰り返し聴く傾向があると答えており、1年間でお気に入りの曲を平均343回再生していることも判明した。これはほぼ毎日1回、同じ曲をかけている計算になる。
新しい音楽との出会いが失われつつあることも調査から浮き彫りになった。回答者の3分の1以上が、お気に入りの曲だけを集めた1つのプレイリストしか聴かないと答え、27%は新しい音楽を積極的に開拓するつもりはないと答えている。
なぜ同じ曲ばかり聴くのかという問いには、65%が「好きなものは好きだから」と回答。半数が「懐かしさ」を、また別の半数が「聴き慣れた安心感」を理由に挙げた。
なぜアルバムを通して聴かなくなったのか
今回の調査結果の背景には、この10年ほどで音楽の聴き方そのものを作り変えてきた、いくつかの構造的な変化が考えられる。
アルゴリズム型プレイリストへの依存
Spotifyの「Discover Weekly」や「Release Radar」に代表される自動生成プレイリストは、再生・スキップ・保存といった行動データをもとに次に流す曲を決めていく仕組みだ。こうした仕組みは便利な反面、リスナーを「アルゴリズムにおすすめされたものを聴く」というループに閉じ込めやすく、自分から能動的に新しい音楽を探す習慣を弱めてしまうとも指摘されている。またプレイリストはジャンルよりも「気分」や「シチュエーション」を軸に組まれることが増えており、1曲単位で消費される流れをさらに加速させている。
TikTokなどショート動画の影響
TikTokやYouTube Shortsのような短尺動画プラットフォームでは、数秒〜十数秒で聴き手の興味を引けるかどうかが勝負になる。この結果、楽曲そのものが「バズるサビ」を軸に短く作られる傾向が強まり、イントロを削ったり、フックを冒頭に持ってきたりする楽曲構成が増えている。とりわけ16〜24歳の若年層では音楽の発見手段としてTikTokが最も多く使われているというデータもあり、アルバムを通して聴くという体験そのものに触れる機会が世代的に減っている可能性がある。
サブスク時代における「アルバム」という単位の変化
CDやレコードを購入していた時代、アルバムは「まとまった金額を払って手に入れる、まとまった作品」だった。しかしサブスクリプションでは1曲ずつ自由に呼び出せるため、アルバムという単位自体の特別さが薄れつつある。アーティスト側もストリーミング回数を稼ぐために捨て曲を減らして曲数を増やしたり、楽曲を短くしたりする戦略を取ることがあり、結果としてアルバムが「通して聴く物語」ではなく「単曲の集合体」として扱われやすくなっている面もある。
一方で、こうした流れへの反動も見られる。カセットテープやレコードプレイヤーといったフィジカルメディアの再評価が進み、若い世代の間でも「頭から終わりまで、飛ばさずに聴く」という体験そのものに価値を見出す動きが出てきているとも言われる。今回の「Track Reset」キャンペーンも、そうした”聴き方を意識的に取り戻す”動きの一つとして位置づけられそうだ。
音楽心理学者とプロデューサーが「聴き方リセット」楽曲を制作
こうした聴取習慣を変えるべく、ナショナル・レールは音楽心理学者ルース・ハーバート博士とDJ/プロデューサーのAdriano Desireを起用し、「Track Reset」と名付けた3分間の楽曲を制作した。日々の音楽ルーティンをリセットする”音の口直し”として、科学的知見に基づいて設計されているという。
このキャンペーンには、BBC Radio 1のブロードキャスター/DJであるピート・トンも賛同を寄せており、今回の調査結果に見られる聴取習慣を「映画の名場面だけを繋げて観ているようなもの」と例えている。
出典: Mixmag – “41% of people in the UK haven’t listened to a full album in a year, according to new poll”(Words: Megan Townsend、2026年7月16日)


