CDだけじゃない。レコード・カセット・有線イヤホン…英国の若者を惹きつける「レトロテック」ブームの正体

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音楽はスマホひとつでいくらでも聴ける時代なのに、いま英国の若者たちの間で急速に人気が高まっているのが、CDやレコード、カセットテープといった「昔ながらの物理メディア」だ。英紙ガーディアンが特集した最新のレポートによると、CDプレーヤーの検索数はこの夏だけで前年から大きく伸び、一部の人気モデルはオンラインで軒並み売り切れになっているという。

ストリーミングと無線イヤホンが当たり前になった今、なぜ若い世代はわざわざ「不便」なアナログ機器に手を伸ばすのか。背景にあるデータと、専門家たちの分析を見ていく。

CDプレーヤーの検索数が96%増。人気モデルは軒並み完売

英百貨店チェーン、ジョン・ルイスの調べでは、7月以降CDプレーヤーの検索数が96%も増加した。夏は英国で大学進学シーズンにあたり、新生活に向けて自室用のCDプレーヤーを買い求める学生が多いことも一因とみられている。実際、手頃な価格帯のポータブルCDプレーヤーはオンラインで在庫切れが相次ぎ、入荷は数カ月先まで待たされる状態だ。

CDそのものの売上も好調で、レコードの伸び率を上回っているというデータもある。大手音楽小売のHMVも前年比でCDの売上が二桁近く伸びていると報告しており、担当者は「K-POPがこの流れを牽引する大きな存在だ」と話す。BTSをはじめとするK-POPアーティストの人気に加え、オリビア・ロドリゴやアリアナ・グランデ、オリビア・ディーンといった欧米アーティストのファンの間でも、CD版でしか手に入らない特典やアートワークを目当てに購入する動きが広がっているという。

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レコード高騰への「反動」としてのCD人気

CD復権を語るうえで欠かせないのが「価格」の存在だ。英国ではレコード1枚あたりの平均価格が約35ポンドに達する一方、CDは12ポンド前後で購入できる。人気バンドの貴重な初回プレス盤ともなれば、状態次第で150〜250ポンドの値がつくことも珍しくない。

マンチェスターのレコードショップ「Vinyl Exchange」のオーナーは、CDを買う客層が若年化していることを指摘し、その最大の理由はやはり価格だと語る。レーベル側がレコードの価格を引き上げ続けた結果、学生など可処分所得の少ない層にとってレコードは手が届きにくいものになった。一方、同じ人気盤のCD版であれば数ポンドで手に入るケースもあり、「安くて質のいい物理メディア」としてCDに再び注目が集まっている構図だ。

レコード、カセット、有線イヤホン…広がる「アナログ回帰」

CDの人気再燃は、単独の現象ではなく、もっと大きな「レトロテック」ブームの一部だと専門家は口をそろえる。ここ数年、レコードの人気が復活したのに続き、カセットテープを買い求める動きも出てきた。さらに、完全ワイヤレスイヤホンの代わりに、あえて有線のイヤホンやヘッドホンを選ぶ若者も増えている。

ジョン・ルイスでオーディオ機器のバイイングを担当する担当者は、こうした流れについて「レコードの復権がアナログへの欲求を再燃させ、その物理メディアへの愛着が今度はCDプレーヤーの急増という形で表れている」と説明する。ひとつのブームが次のブームを呼び込む、連鎖的な現象というわけだ。

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なぜ「あえて不便」を選ぶのか。キーワードは“見た目”と“体験”

これほどまでにCDやレコードが支持される理由は、音質や価格だけでは説明できない。ブランド戦略家のアレクシ・ガナー氏は、この現象を「パフォーマンス型オーディオ愛好症」と名付けている。ポータブルCDプレーヤーや有線イヤホンを身につけて歩くこと自体が、周囲に対して自分のセンスや音楽への造詣の深さを示す一種の“ファッション”になっているというのだ。

ガナー氏はさらに、この物理メディア回帰を「反逆」の一形態だと捉える。ストリーミングと、誰もが同じiPhoneでワイヤレスイヤホンを使う画一的な音楽体験に対して、聴覚だけでなく指先の感触も含めた「音楽を聴く行為」そのものを取り戻したいという欲求が根底にあるという見立てだ。

Z世代のトレンドを発信するライターのJ’Nae Phillips氏も同様の見方を示す。音楽が事実上無限に、しかも一切の手間なく聴ける時代だからこそ、あえて1枚のアルバムを選び、ディスクをセットして最初から最後まで通して聴くという行為に価値が生まれているという。アルゴリズムのおすすめに身を任せるのではなく、自分の意志で音楽を「モノ」として所有し、体験することに、ある種の文化的なステータスを感じる若者が増えているのだ。

CDの次に来るのは「USBメモリ」?

興味深いことに、CDは若い世代にとって“最後の”リバイバル候補だという見方もある。MP3が普及する2000年代初頭より前の物理メディアとしては、CDが事実上最後のフォーマットだからだ。

その先にあるかもしれない次のトレンドとして名前が挙がっているのが、USBメモリだ。人気DJの間ではもともと、ライブ会場に楽曲データを持ち込む際の定番アイテムとしてUSBメモリが使われてきた。ガナー氏は、CDやレコードで培われた「物理メディアを持つことがステータスになる」という価値観が、今後USBメモリのような別のアイテムにも波及していく可能性を指摘している。

まとめ:便利さの反動が生んだ、新しい“アナログ文化”

サブスクでいつでもどこでも音楽が聴ける時代に、あえてCDやレコード、カセットを選ぶ若者たち。その背景には、レコード高騰への現実的な価格対策としての側面と、画一化されたデジタル体験へのカウンターとしての文化的な側面が同時に存在している。

ポータブルCDプレーヤーを片手に有線イヤホンをつけて歩く——そんな光景は、単なる懐古趣味ではなく、「音楽を自分の手で選び、所有し、体験する」という新しい価値観の表れなのかもしれない。次にどんな物理メディアが若者たちの心をつかむのか、今後の動きにも注目したい。

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