バッファローが生んだラッパー/プロデューサーのChé Noirが、最新のRolling Stoneのインタビューで理髪店経営、音楽業界からの一時的な撤退、そしてもっとも個人的な作品となった最新作『The Lotus Child』について語りました。
生楽器が導く新たな表現の地平
2024年10月25日にリリースされた13作目となるアルバム『The Lotus Child』は、Ché Noirの音楽キャリアにおける大きな転換点となりました。このアルバムで初めて本格的に生楽器を導入し、その温かみのある音色は彼女の言葉により一層の深みを与えています。
Rapsodyをフィーチャーした「Black Girl」や「Angel」といった楽曲では、人生における試練を聴き手の心に響く形で昇華する彼女の手腕が遺憾なく発揮されています。自身のレーベル「Poetic Movement」の主宰者でもある彼女は、Apollo BrownやPesh.38といった実力派プロデューサーとの共作を重ねながら、独自の表現を追求してきました。
喪失と再生を経て
2022年はChé Noirにとって大きな試練の年となりました。兄弟と叔父を相次いで失い、その喪失感は彼女を深い悲しみと自暴自棄へと追いやったといいます。音楽業界から距離を置くことを決意せざるを得ない状況に追い込まれましたが、その期間は思わぬ転機ももたらしました。それが現在の夫との出会いです。
彼女は夫との出会いについて「恋に落ちたんです」とし、「出会うまで、愛がここまで人を変えられるとは思っていませんでした」と柔らかな表情で振り返ります。
また、2022年には夫とともにバッファローのエルムウッド・ビレッジに理髪店をオープンし、音楽以外の場所でも着実に足場を固めています。夫婦の関係性について歌った、完成まで1年以上を費やしたという「Wis Love」は必聴です。
アンダーグラウンドからのブレイクスルー
イーストコーストのヒップホップシーンで確かな評価を得てきたChé Noir。いわゆるヒップホップ・ピュアリストたちが、特に女性ラッパーの表現について批判的な意見を展開する中で、彼女は着実に作品の質を積み上げてきました。
彼女は「自分の音楽性が広く受け入れられるか不安に思うこともありました」と胸の内を明かしつつ、「でも今は、音楽が導いてくれる道をありのまま受け入れることを学びました。この5年間で築き上げることができたファンとの関係に、心から感謝しています」とコメント。
生音と魂の調べ
最新アルバム『The Lotus Child』のサウンドづくりについて、Ché Noirはつぎのように語りました。「生楽器を取り入れることは長年温めていたアイデアでした。私自身、音楽プロデューサーとしてスタートしましたから。演奏家たちと共演し、その演奏を自分のプロダクションに織り込んでいく。それは2014年頃から描いていた夢でした」
アルバムの制作は2020年から始まり、「Shadow Puppet」のビートを作ったのはロックダウン中だったそう。その後、何度も形を変えながら、2021年にようやくボーカルの録音にこぎつけたといいます。
また、セッション・ミュージシャンとの共演も、緻密に計画したとのこと。「基本的な録音を終えてから、どこに生演奏を加えるか慎重に検討しました。例えば『WisLove』で素晴らしいギターを弾いてくれた女性ミュージシャンとは、DCのハワード・シアターでの公演で出会いました。彼女の演奏に一目惚れして、すぐに連絡先を交換しましたね」
新たな挑戦へ
今後の展望について、Ché Noirは明確なビジョンを持っています。「生楽器の可能性をさらに追求していきたいですね。プロデューサーとしても、様々なサウンドの探求を続けていきたい。ただし、サンプリングについては慎重になっています。著作権の問題で頭を悩ませるくらいなら、最初から自分たちで音を作り上げていきたいと考えています」
伝統的なヒップホップの精神を継承しながらも、常に新しい表現を模索し続ける彼女の姿勢は、変わりゆく音楽シーンの中で、確かな指針となることでしょう。
リリース情報
- タイトル:『The Lotus Child』
- アーティスト:Ché Noir
- レーベル:Poetic Movement Records
- 発売日:2024年10月25日
- 配信:各種音楽配信サービスにて配信中