10代の頃に書き上げたデビュー曲「Blue Lights」から、今年でちょうど10年。節目の年に届けられる今作は、彼女がこれまで大切にしてきた親密さや誠実さを保ちながらも、サウンドの幅を大きく広げた一枚だ。
アルバム『What Are The Odds』とは?
『What Are The Odds』は、Jorja Smithにとって新しい自信に満ちた章の始まりとなる作品。UKガラージ、グライム、2ステップ、UKファンキー、ハウスといった、彼女のルーツでもある英国のクラブカルチャーの要素を取り入れながらも、これまでの作品を特徴づけてきた感情の誠実さはしっかりと留めている。
制作を共にしたのは、ロンドンの著名プロデューサーP2J(ビヨンセ、ストームジーとのコラボレーションで知られる)。誰かに急かされるでもなく、直感を信じ、自分自身のペースを大切にしながら音楽制作の喜びを再発見していった――そんな自主的な制作過程が、作品全体からも伝わってくる。
全12曲。「For Life」で幕を開け、タイトル曲「What Are The Odds」、そして数々の話題曲を経て、最後は「When It Gets Like That」で締めくくられる構成となっている。
聴きどころの楽曲たち
先行シングルとして公開され、今作を象徴する一曲となっているのが「Alive(feat. Wizkid)」。ロンドンでの共同ソングライティング・セッションから生まれた、温かく流れるようなコラボレーション曲で、誰かと繋がることの高揚感、恋の始まりの初々しさが、豊かな楽器演奏と繊細なパーカッションに乗せて描かれている。
ミュージックビデオもぜひチェックしたいところ。パリで撮影され、蒸し暑い夏の夜を女友達と過ごすジョルジャの姿から、最後にWizkidと再会し、街を見下ろすバルコニーで曲を披露するシーンまでを追った内容になっている。
もう一つの軸となるのが「What’s Done Is Done」だ。ミュージックビデオは、長年のコラボレーターであるKCロック(リトル・ミックス、ジョナス・ブルーを手がけてきた監督)が担当。友人たちと過ごすロンドンのナイトライフを映し出し、レイヴやブロックパーティ、屋上での静かなひととき、単独での移動シーンなどが織り交ぜられている。
楽曲自体は、傷つき、受け入れ、そして苦難を経て勝ち取った決意をめぐるナンバー。一線を引き、自分の力を取り戻し、元通りにはならないことを受け入れる――そんなメッセージが、驚くほどの明快さと抑制をもって歌われている。
さらに今作には「I Lied, You Lied」も収録。恋愛感情と不誠実さ、精神的な疲弊のあいだで揺れ動く関係を冷静に見つめ、いつもの悪循環がもう繰り返せないと気づく瞬間を捉えた曲だ。一貫性のない言動や、相手を支配しようとする駆け引きに弄ばれる関係性の本質を見抜き、そこから去っていく――強さと脆さのバランスが絶妙な一曲に仕上がっている。
プロデュースはP2Jに加え、サックス奏者マルコ・ベルナルディスも参加。エレクトロニックなプログラミング、ピアノ、サックスによる控えめなプロダクションが、ジョルジャの歌声とストーリーテリングをしっかりと中心に据えている。
デビュー10周年という節目
Jorja Smithの名を世に知らしめたのは、10代の頃に書いた「Blue Lights」。イギリスの日常に潜む緊張感、警察の威圧や人種プロファイリング、監視下で生きることの感情的な重圧を歌ったこの曲は、2016年1月にSoundCloudへ投稿されると瞬く間に広がり、英国音楽と文化における重要な瞬間を作り出した。
今年はその節目となる10周年。彼女は初回シーズンの『Saturday Night Live UK』に出演したほか、リズ・アーメッド主演のPrime Videoシリーズ『ベイト』のサウンドトラックに「Price Of It All」を提供するなど、精力的に活動を展開してきた。さらに7月末から8月上旬にかけては、ハリー・スタイルズのツアー“Together, Together”にスペシャルゲストとして参加し、メキシコシティ公演に6公演連続で出演したことも話題を呼んだ。
『What Are The Odds』は、そんな記念すべき一年のハイライトとして位置づけられている作品だ。
まとめ
デビューから10年という節目に届けられた『What Are The Odds』は、Jorja Smithがこれまで築き上げてきた誠実さや親密さを核としながらも、UKクラブカルチャーの要素を大胆に取り込み、新たな自信をまとって前進する一枚。
「Alive」の高揚感、「What’s Done Is Done」の決意、「I Lied, You Lied」の脆さと強さ――それぞれ異なる感情のグラデーションを持つ楽曲たちを、ぜひアルバム単位でじっくりと味わってみて欲しい。


