バンドを知る前に、ライブがソールドアウトになった。
2023年、ブルックリンのクラブ「Baby’s All Right」。その時点でFcukersがリリースしていた曲は、ほぼ1曲だけだった。それでも会場は満員に。その後、NMEの表紙を飾った時点での音源は、たった4曲。Justice、Tame Impala、LCD Soundsystemのサポートとして舞台に立ち、パリ・ファッション・ウィークではエディ・スリマンのためにDJをこなした。Billie Eilish、Charli XCX、Julian Casablancasといった名前が「好きなバンド」として彼らを挙げている。
Fcukersとは何者か
Fcukersは、Shanny WiseとJackson Walker Lewisによるニューヨーク発のエレクトロニック・デュオ。
Shannyはかつてバンド「The Shacks」のボーカルを務め、JacksonはDJとして複数のプロジェクトで活動していた。2人がニューヨークのシーンで出会い、ユニットを組んだのはごく自然な流れだったという。Jacksonの90年代ニューヨーク・ハウスへの偏愛と、Shannyのロック・レゲエ的な感覚が混ざり合うことで、単なる懐古趣味にならない、現在進行形のパーティー・ミュージックが生まれた。
2024年のEP『Baggy$$』で一気に注目を集め、以来その名前はフェス・ラインナップや海外ファッション誌などにも頻繁に登場。Coachella、Primavera、Glastonburyクラスの舞台への抜擢、Louis VuittonやCelineのイベントへの起用まで、活動の幅は急速に広がっている。
デビューアルバム『Ö』のこと
『Ö』は、2026年3月27日にNinja Tuneからリリースされたバンド初のフルアルバム。
記号だけのタイトルは、プリンスが自分の名前を記号に変えた時代に触発されつつ、「もう普通の単語はアルバム名として使い尽くされている」という判断からこの奇妙な一文字に落ち着いたという。見た目のインパクト込みで、Fcukersらしい選択だと思う。
制作面では、Kenneth Blume(旧名Kenny Beats)がエグゼクティブ・プロデュースを担当し、Dylan Brady(100 gecs)が追加プロダクションで参加。2人は当初アルバム制作のプレッシャーに苦しんでいたそうだが、ロサンゼルスでKenneth Blumeと合流してから流れが変わった。2週間の集中セッションで、アルバムの大半を書き上げ・録音したとされている。
音はどんな感じか
ひと言で言うなら、深夜のクラブとその後の曖昧な時間帯。
ハウス、ドラムンベース、UKガラージ、ダブ、トリップホップ、バレアリック。それらが雑食的に混ざり合いながら、短くてフックの強いポップへと変換されている。The GuardianはこのアルバムをGroove ArmadaやBasement Jaxxに根ざしたサウンドとして位置付けており、同世代のY2K・エレクトロクラッシュ勢とは少し異なる文脈を持つと指摘している。
Shannyのボーカルは、感情を爆発させるタイプではない。気だるく、無表情で、ミニマル。それが不思議と中毒性を生んでいる。Pitchforkは彼らの音楽を「気怠く、ミニマルで、セクシーなクラブ催眠」と表現。なかなか的確な言い方だと思う。
全11曲、どう聴くか
収録曲は以下の通り。
1. Beatback / 2. L.U.C.K.Y / 3. Butterflies / 4. if you wanna party, come over to my house / 5. Play Me / 6. Shake It Up / 7. I Like It Like That / 8. TTYGF / 9. Lonely / 10. Getaway / 11. Feel The Real
前半に瞬発力が集中している。特に2〜5曲目の流れはかなり強く、後半は盛り上げるというより、夜がゆっくりとほどけていく感じ。そこをどう受け取るかで評価が変わりやすい作品でもある。
まず3曲だけ聴くなら、以下がおすすめ。
「I Like It Like That」――Fcukers入門として最適
ダブ・ハウスの骨格に、繰り返しのマントラ的なフック。意味よりも音として機能する歌詞が、聴くほどに体に馴染んでくる。Pitchforkでも代表曲として扱われており、Fcukersのキャラクターを掴むにはまずこの曲から入るのが正解。
「Play Me」――ライブで一番盛り上がるやつ
90年代ドラムンベースのリズムがトリガーマンのブレイクへと加速し、ピッチを変えた声の処理が痛快に乗っかってくる。多くのレビューがアルバムのピーク候補として挙げる1曲。瞬発力という意味では、アルバム随一だろう。
「Butterflies」――意外と作り込みがうまい
UKガラージ的なリズムの刻みと、トランシーな抜け感が同居。Dylan Brady参加曲でもあり、Chemical BrothersとNeptunesの中間とも評された音像が面白い。前の2曲とは少し違う角度から、Fcukersの技量が見える曲。
深夜3時の質感――「TTYGF」について
もう1曲だけ触れておきたい。
「TTYGF」は、セント・ヴィンセント出身のラッパー、Skiifallが参加したダブ/トリップホップ寄りのトラック。パトワ語混じりのヴァースが、うごめくような低音と浮遊するホーンの上に溶け込んでいく。Shannyのボーカルは冷たく挑発的で、楽しかったはずの夜が霧の中に消えていくような午前3時以降の空気感を纏っている。
アルバムの中でも、少し毛色が違う。単純に踊れる曲ではなく、聴いた後に何かが残るタイプの曲だ。
「デビュー作としてはかなり存在感がある」
Pitchforkは冷静に、「勢いと個性は本物だが、数曲はやや凡庸」と指摘。それは正直な評価だと思う。ただ、その上でこう付け加えている――まだ伸びしろも大きい、と。
Guardianは「速く、短く、逃避的で、すぐ耳に残る」という強みはすでに明確だと評した。2026年は北米ヘッドライン・ツアーに加え、Governors Ball、Bonnaroo、Primavera Soundへの出演、RÜFÜS DU SOLのサポート、Harry Stylesの公演でのオープニング出演も控えている。彼らのキャリアが一段上に上がるタイミングだといえるだろう。
最後に
Fcukersは、説明が先に来るバンドではない。
まず聴いてみて、気づいたら体が動いている。それがFcukersの正しい出会い方だと思う。デビューアルバム『Ö』は、夜が好きな人、踊ることが好きな人、あるいはかつてそうだった人に、素直に届く一枚だろう。


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