マラウィの雪景色の中でスノーエンジェルを作りながら、同時に音楽シーンの革命を企てる─。南アフリカ出身のアーティスト、Moonchild Sanelly(ムーンチャイルド・サネリー)の姿は彼女自身のアート性を象徴するかのようです。アフリカンビートとエレクトロニックミュージックを独自に昇華させた彼女のサウンドは、グレース・ジョーンズを思わせる強烈な個性と相まって、グローバルシーンで存在感を放っています。
2025年1月10日にTransgressiveレーベルからリリース予定の3rdアルバム『Full Moon』は、そんな彼女の革新性を詰め込んだ意欲作です。Moonchild Sanellyは、アルバムの制作秘話や作品に込めた思いをDORKの最新インタビューで明かしました。
ジャンルの境界線を溶かす”future ghetto funk”
Moonchild Sanellyが提唱する”future ghetto funk”は、単なるジャンルの定義を超えた音楽哲学です。それは、既存の枠組みに収まることを拒否する彼女の姿勢を表現しています。
「私の音楽は、決して一つのジャンルに縛られません」と彼女は最新アルバム『Full Moon』のサウンドについて語ります。「今回のアルバムでは、プロデューサーのJohan Hugo(Self Esteem、M.I.A.を手がけた実力派)と共に、一貫性を持たせることを意識しました。でも、それぞれの楽曲が持つ個性は損なわれていません。一つの作品として完全に調和しているんです」
グローバルな制作環境から生まれた最新作『Full Moon』
アルバム『Full Moon』は、マラウィ、イギリス、スウェーデンという3つの国を跨いで制作されました。これは、パンデミック時代にリモートで制作された前作とは大きく異なるアプローチだったといいます。
「今回の制作プロセスは、私にとって大きな学びでした。A&Rの意味も理解できるようになりましたし」と彼女は笑うと、「前作はロックダウン中の制作で、プロデューサーの99%とは実際に会えませんでした。でも今回は違います」と振り返りました。
アルバムの制作過程で、彼女は自身の経験を赤裸々に音楽へと昇華させました。あるとき深夜、マネージャーのローレンに送ったボイスメモには、そんな彼女の覚悟が込められていたといいます。
「このアルバムは、私が実際に経験している最中に完成させる必要があったの。観察者の視点からでは、この内容は書けないから」
収録曲「Mntanami」は、南アフリカのコミュニティが抱える不在の父親という問題を扱っています。しかし、それは単なる批判ではなく、深い共感と赦しの視点から描かれた楽曲です。
「この曲は、ある意味で許しの手紙です。より良い選択をする機会を持てた私の特権を知った上で、不在の父親たちの視点から書きました。私たちのコミュニティでは、年を経て戻ってくる父親たちがいます。『若かったから』という言い訳で片付けられることも多いですが、その背後には複雑な感情の操作が存在しているんです」
Self Esteemとの運命的な出会い
アルバム制作と並行して実現したのが、UKの注目アーティストSelf Esteemとのコラボレーション「Big Man」です。2022年、GorillazとのフェスティバルでSelf Esteemのステージを目にしたことが、この collaboration の始まりでした。
「私のマネージャーに勧められて見に行ったんです。そして完全に魅了されました。彼女たちのプロデューサーとも絶対に仕事をしたいと思いました」
スタジオでの録音セッションは、まるで運命的な出会いのようだったという。「エネルギーが完璧にマッチしたんです。もう一曲、より繊細な楽曲でのコラボレーションもアルバムに収録されています。初対面とは思えないほど、互いを理解し合えました」
さらなる高みを目指して
アルバム『Full Moon』のリリースを控える中、11月16日には、UKの名門フェスティバルであるLive At Leeds: In The Cityへ出演。1980年代から続くこのフェスは、数々の伝説的アーティストを輩出してきました。
当初、イギリスの観客の控えめな反応を心配するマネージャーに対し、彼女は自信を持って「彼らはまだMoonに会ってないだけよ」と答えたといいます。その言葉通り、彼女のエネルギッシュなパフォーマンスは、イギリスの観客の心をも掴んでいきました。
すでにBeyoncé、Gorillaz とのコラボレーションを実現させた彼女だが、まだまだ目標は尽きません。「Doechiiや Doja Cat、Megan Thee Stallionともコラボレーションしたい。私はいつも、一緒に仕事をしたいアーティストの音楽を聴くようにしています。それは私なりのマニフェステーションなんです」
雪深いマラウィから世界の音楽シーンへ─。Moonchild Sanellyの軌跡は、まさに満月のように輝きを増しています。「これが私の”Full Moon”の瞬間です。ここまでどれだけの時間がかかったかは関係ありません。私がついに到着したことを、心から実感できる瞬間なんです」