ロンドンの街角で響く深いソウルフルな歌声。ウガンダ出身の両親を持つMichael Kiwanuka(マイケル・キワヌーカ)は、自身のアイデンティティと音楽を通じて、独自の表現方法を見出してきた音楽家です。
「移民の子どもとして、常に自分探しの旅の途中にいる」と語るMichael Kiwanuka。その旅は10代の頃、隣人との週末のジャムセッションから始まりました。金曜日の2時間、NirvanaやThe Offspringのカバーを演奏しながら、彼は音楽の中に居場所を見出していったそう。
「ギターとバンド。それは私たち不適合者たちのセーフハウスでした」と、目を輝かせながら当時を振り返る。「周りに馴染めない時、自分の進む道が見えない時、音楽は私たちを包み込む大きなコートのような存在でした」
インスピレーションとスタイルの確立
大学でジャズを学んだ後、Michael Kiwanukaは意外な選択をすることに。彼は、テクニカルな複雑さを追求する代わりに、よりミニマルで情緒的なアプローチを選びました。
Michael Kiwanukaは、シンプルなコードやプログレッションこそがリスナーの心を開く鍵になるといいます。「そこから、より深い何かを感じ取ってもらえる。最も難しいのは、シンプルな中に深い芸術性を込めることです」
2000年代初頭に作曲を始めたMichael Kiwanuka。当時、影響を受けたのは、Bill Withers、Terry Callier、Marvin Gayeといった70年代ソウルの巨匠たちでした。「当時のシーンに自分の姿を見出せなかった。ロンドンのウガンダ人として、アメリカ音楽の影響を受けながら、白紙のキャンバスに自分だけの音楽を描き始めたんです」
2012年のデビュー・アルバム『Home Again』から、Michael Kiwanukaの音楽的アイデンティティは明確でした。生楽器、ゆったりとしたグルーヴ、エレガントなストリングスと管楽器のアレンジメント、そこには、流行を追いかけない彼の芸術観が色濃く反映されています。
2016年の『Love & Hate』では、InfloとDanger Mouseという二人の重要なコラボレーターを得て、さらなる進化を遂げています。より広がりのあるサウンドスケープ、繊細なディテール、ドラマティックな楽曲構成。この三位一体の関係は、2019年のマーキュリー賞受賞作『Kiwanuka』、そして最新作『Small Changes』まで続いています。
最新アルバム『Small Changes』で新たな表現への挑戦
パンデミックを経て、父親としての経験も加わったMichael Kiwanukaの最新作『Small Changes』では、より内省的で親密な表現に挑戦しています。彼は本作の収録曲を「これまで歌う勇気がなかった曲たち」とし、「アーティストとして様々な欲求がある。壮大な曲を作りたい気持ち、音楽的な評価を得たい気持ち、人々に共感してもらいたい気持ち。今回は、そういった期待から自由になって、ありのままの自分を表現できた気がします」とコメント。
アルバムには、疑いや落ち込みと向き合う曲から、永続的な愛を謳う曲まで、幅広い感情が込められています。タイトル曲「Small Changes」は、人生における忍耐と持続の大切さを説いた楽曲。「山は一歩ずつ登るしかない。小さな変化の積み重ねが、大きな達成につながるんです」
「最高の賛辞は、地下鉄で誰かが私の曲を路上ライブで演奏しているのを見かけること」と語るMichael Kiwanuka。「ボロボロのアコースティックギターで『Small Changes』を弾いて、人々の心を動かす。それが私の目指すところです。それが私にとってのユートピアなんです」
シンプルさの中に深い芸術性を求め続けるMichael Kiwanukaの音楽は、文化の境界線を超えて、普遍的な人間の感情に触れる力を持っています。それは、現代の音楽シーンにおいて、稀有な価値を持つ存在といえるでしょう。