Kilian Sladek、新作『Colorblind』で描く「色が見えなくなる日常」と、ジャズを土台にした温かなソウルの世界

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ミュンヘンを拠点に活動するシンガー/コンポーザー、Kilian Sladek(キリアン・スラデク)が、2026年10月9日にニューアルバム『Colorblind』をBergson Musicからリリースした。ジャズに根を置きながら、ネオソウルやR&B、モダンポップへと表現を広げてきた彼が、全編英語の歌詞で言葉と旋律を前面に押し出した一枚だ。

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アルバム『Colorblind』:一息ついて、色を取り戻す

タイトルの「Colorblind」は、色が見えない状態を指す言葉。Sladekはこの言葉に込めた思いを、アメリカのラジオ番組Neon Jazzのインタビューで語っている。

久しぶりに、国の反対側に住む祖母を訪ねる場面を想像してほしい。なじみのある空気の中で話をすると、会っていなかった間に自分がどれだけのことを経験したかに気づく。いつも走り回っているように感じていても、細かい部分や小さな色に目を向けると、何も見えていないような感覚が少しずつ薄れ、色がまた見え始める。そんなイメージだという。

彼がリスナーに届けたいのは、一息ついて座り、お茶を飲んで人生を楽しむきっかけだ。だからこそ本作は、配信に加えてアナログ盤でもリリースされる。レコードに針を落とし、体を預けて聴く。その聴き方を、媒体そのものを通して味わってほしいという考えだ。

制作とゲスト

アルバムは、Sladekとピアニスト/プロデューサーのSam Hyltonが約3年にわたって協働して形にした。制作は、Sladekがまずピアノで和声と旋律を組み立て、Hyltonと一緒に仕上げていく流れ。Joshua Miloもプロデュースに参加し、ドラムはLisa Wilhelmが担当している。

先行シングルとして公開されたのは、ギタリストTorsten Goodsが参加した「Gravity」(6月26日)と、トランペット奏者Joo Krausを迎えた「All Yours」(8月7日)。Sladek本人は、ゲストは後から足したのではなく、それぞれの曲に合わせて作曲の段階から書き込まれていると説明している。曲ごとに客演を設計するアプローチは、本作の聴きどころのひとつだ。

リリース公演も開催

10月16日には、Bergson KunstkraftwerkのライブクラブBarbastelleでリリース公演を開催。開演は19時。Torsten Goods(ギター)、Joshua Milo(キーボード)、Ludwig Klöckner(ベース)、Marco Dufner(ドラム)がバンドに加わり、Karoline Weidtもゲストとして登場する予定だ。同会場の「Kilian Sladek meets…」シリーズで少しずつ育ててきたライブの集大成にあたる。

声の実験から、言葉と歌の世界へ

Sladekは現在、ミュンヘンのBergson Kunstkraftwerk発のレーベルBergson Musicで作品を発表している。この施設にはミュンヘンの音楽家や作曲家ら約100人が所属する「Bergson Artists」があり、彼もその一員だ。EP『PSYCHO』では、頭の中で膨らむ考えとあふれ出す感情という「内面の世界」を描き、収録のシングル「Work It Out」は、欲望や依存、自分をコントロールできなくなる感覚を扱っている。よくないとわかっていても離れられない恋愛が題材だ。

Bandcampでは自身の音楽を、ジャズにルーツを置きつつR&Bやネオソウル、モダンポップを行き来するものと説明しており、中心にあるのは温かく表現力のある声だという。Bergsonの紹介によれば、Spotifyでのストリーミングは10万回を超え、BR Klassikからは「稀有な声の宝石」と評されたとのことだ。

音楽のはじまり

Sladekはバイエルン地方出身で、家族がいつも音楽を奏でる環境で育った。最初の楽器はトランペット。家のピアノもほとんど習わずに即興で弾いていたそうで、作曲を続ける力はこの時期に培われたと話している。誕生日のたびに父親が自作の長い歌を作ってくれたことも、創作の原体験になったという。

その後は合唱、スクールビッグバンド、クラシックのソロ歌唱へ進み、ミュンヘンとラトビアのリガの音楽院でジャズ声楽を学んだ。2018年から2020年は、ドイツの若手ジャズ奏者が集うBundesjazzorchester(連邦ユースジャズオーケストラ)で歌手を務め、2021年にはバイエルン・ジャズ・ユニオン(Bayerische Jazzunion)の奨励賞(Förderpreis)を受賞している。

スキャットと拡張ボーカルの実験

Sladekの大きな特徴は、声の使い方の幅広さだ。公式バイオによれば、豊かな感情表現に加え、スキャット(歌詞の代わりに「ダバダバ」のような音節で即興的に歌う手法)やエクステンデッド・ボーカル・テクニック(通常の歌唱を超えた発声法)を多用している点が持ち味とされる。

こうした探求は、2020年にUnit Recordsから発表したデビュー作『Syllabulism』や、2022年の『Seasons』に結実した。そこでは、McFerrinやAl Jarreauらスキャットの名手たちの影響に、EDMやアンビエント、映画音楽的なサウンドが交わっている。EDM/アンビエント系のプロジェクトFragmentsでも活動してきた。『Syllabulism』をめぐっては、Süddeutsche Zeitungが、母音だけで歌うことで聴き手を明確な言語の制約から解き放ち、印象や感情の余地を残していると評している。Donaukurierも、直感的なパフォーマーであり、早口の音節の連なりに驚くほどのリズムを詰め込むと評価した。

声の実験だけでなく、ジャズのクルーニング(やわらかく歌い上げる唱法)を担うYOUNG&FOOLISHや、シンガーソングライター系ジャズのaMUSEなど、複数のユニットを並行して続けている点も特徴だ。

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憧れとルーツ

インタビューによれば、クラシックではPalestrinaなどの古い合唱音楽に親しみ、スクールビッグバンドではBobby Darin、Frank Sinatra、Dean Martinといったクルーナーの曲を歌ってきた。そこからAl JarreauやBobby McFerrinを通じて、声を楽器として使う面白さに目覚めたという。

歌詞を書き始めた経緯については、Dianne Reevesが30歳ごろまで歌詞を書かなかったという話に自分を重ねている(本人の記憶による)。それまでは他人の曲を歌うか、声を楽器として扱うかのどちらかだった彼が、自分の人生を言葉にして曲にしようと考えるようになった。声の実験を重ねてきた歌手が、言葉と旋律を前面に出す。その変化が最も鮮明に表れたのが『Colorblind』だと言えるだろう。

最初に強い衝撃を受けたライブとして、Quadro Nuevoのコンサートを挙げている。旅先で録音し、その土地の文化を持ち帰って自分たちの音楽にしていく姿が心に残ったという。音楽は世界中で通じる言葉だと考えている。

ジャズについては「選んだというより、選ばれた」と語り、Count Basie Orchestraのような楽しさやはずみ、遊び心に惹かれるそうだ。自分のことは「歌うのが好きないいやつ」と表現している。

企画者としての顔

Sladekは歌うだけでなく、コンセプトデザイナーやアーティスティック・ディレクターとしても活動する。公式サイトでは、フェスティバルやコンサートシリーズのキュレーションを手がけていると紹介されている。ミュンヘン工科大学のTUM: Junge Akademieの研究チームとは、研究成果に基づくコンセプチュアルなジャズ作品を制作する協働も行った。

まとめ

ジャズの基礎体力、声の実験で磨いた表現力、そしてソウルやR&Bの感覚。そのすべてを、言葉と旋律に託してまとめ上げたのが『Colorblind』だ。忙しい日々の中で見えなくなっていた色を取り戻す。そんな時間を、ぜひレコードのある暮らしとともに味わってみてほしい。

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